前回までの実験では、G2にG3を接続したコントロール電極を持つ定電流トライオードとして、いろいろな電流特性を計測してきました。しかしどの動作例でも最適動作電流が1mA以下である点にやや不満を残しました。

ところでこのときG1に関しては常にアース電位、つまりカソードにつないでいたのですが、その理由は定電流素子の汎用性を考慮すると、これ以上パラメーターを増やしたく無かったからです。

しかしヒーター点火用直流電源の利用で簡単に別のバイアス電源が用意出来、なおかつよりすぐれた定電流特性が得られるのであれば、2つパラメーターを持つ定電流低電圧テトロードも試してみる価値があるのではないでしょうか。


      


特に定電流トライオードの実験で判ったことは、比較的バイアスの低い電流の少ない領域においてフラットな定電流特性を持っているという点で、これをG1の電圧によりうまく調節できれば、より優れた定電流回路が構成できるはずです。

まず実験に使用するのは、6AU6同等管であるドイツ製7543です。これが持つSLVCCC特性は「もしかしたらドイツ国内では、戦前から密かにこのような研究を行なっていたのではないか?」と勘繰りたくなるような、正に格別の感があります。

しかもフロービスで1本500円ですから、私のようなSLVCCCマニアにはたまりません。ただしグリッド電圧の上昇と共に左肩の位置が右に崩れる傾向は仕方ないようで、これが今までのSLVCCCの定めでした。


         


ところがバイアス1を固定しバイアス2のみをパラメーターとして計測した結果、肩特性が右側に崩れずに電流領域が上昇することがわかったのです。そこで比較的肩特性の良い20Vにバイアス1を固定して、バイアス2を0〜1,2Vまで変化させたのがが下の表です。


         


これにより電流の範囲が2mA以上に上昇したため利用範囲が広がりました。このままではグラフに収まり切らないので、縦軸を0,2mA/divから0,5mA/divにしてもう少し見やすくした結果、3mA近くまで実用領域が広がり、回路の自由度が増した事が分かります。


         


こうなると以前あまりSLVCCC向きではなかった6EJ7の反応が見たくなります。かつて測定した時は電流の立ち上がりが悪く、ほとんど使い物になりませんでした。


          


そこで早速測定実験を行なった結果、6EJ7ではむしろバイアス2、つまりG1にマイナスのバイアス電圧を加えた方が良いと分かったのです。

同じような真空管でも、全く逆の条件が適しているという意外な展開に驚きながら、特性の良かったバイアス2=−0,6V時の、バイアス1を変化させて計測した特性が下のグラフです。


          


若干左肩が丸いという点はあるものの見事な大変身で、しかもこの特性は球の個体差にほとんど左右されないようなのです。ところで0,6Vと言う電圧はシリコンダイオードの順方向電圧ではありませんか。

そこで下のような接続により、ダイオードによる自己バイアス回路を組んで計測してみました。こうすればバイアス2の電源を用意する必要がなくなります。


            


その結果が下のグラフで、回路的にはかなり簡略化されたにもかかわらず特性はほとんど変わらないことがわかります。


           


今回の実験では、より汎用性あるSLVCCCに1歩近づくことができました。そしてまだまだ真空管の世界には、少なくとも自分にとって未知なる展開が多く待っている気がしてなりません。

次回は実際の差動回路を設計するにあたり、増幅部分に対して新たなSLVCCC向き動作点を探ります。


つづく



更なる電流領域の拡大を求めて
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